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2012年8月のひとこと書評(掲示板に書いた文章の転載。評価は★5つが最高)
8月のひとこと書評の再録です。掲示板そのままでは芸がないので、評点をつけます。★5つが最高。評価基準の詳細は、2001年11月書評のページをご参照ください。
(754) 『夏の庭』(著:湯本香樹美。新潮文庫)
P97 太陽の光の七つの色。それはいつもは見えないけれど、たったひと筋の水の流れによって姿を現す。光はもともとあったのに、その色は隠れていたのだ。
P105「~でも、どこかにみんながもっとうまくいく仕組みがあったっていいはずで、オレはそういう仕組みを見つけたいんだ。~」
P114 「オレはまだ、ヒラメのお造りができない。できないうちに死ぬのはいやだって思う。~」
死んでもいい、と思えるほどの何かを、いつかぼくはできるのだろうか。たとえやりとげることはできなくても、そんな何かを見つけたいとぼくは思った。そうでなくちゃ、なんのために生きてるんだ。
P156 時々、初めての場所なのに、なぜか来たことがあると感じたりするのは、遠い昔のだれかの思い出のいたずらなのだ。
P204 「だけど、ぼくは書いておきたいんだ。忘れたくないことを書きとめて、ほかの人にもわけてあげられたらいいと思う」
~
「いろんなことをさ、忘れちゃいたくないんだ。今日のことだって書くと思うよ、きっと」
P209 チクショウ、山下、おまえってやつはどうしてそうなんだよ!
★★★
(755) 『東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~』(著:リリー・フランキー。新潮文庫)
P38 オトンはいつも、サンダーバード5号のように~遠いどこかにプカプカ浮いているような存在だった。
~
そして、オカンはいつも、サンダーバード2号のように、コンテナのボクを胴体に収めて、近すぎるほど近い場所に居た。
P50 今、自分が大人になって改めて思うが、息子の単なる友達に、息子と同じ腕時計を買ってあげるなんてことは、なかなかできることじゃない。
P57 オカンが人に気をよく配ったように、ボクも子供の頃、オカンに金銭的なことではどこか気を使っていた。
~
でも、「欲しい」と口にしたものは確実に買ってもらえた。
P60 ボクはよそにお呼ばれすると「おかず、これだけなんだ・・・」と思ったりもした。
P64 行儀とは自分のための世間体ではなく、料理なら、料理を作ってくれた人に対する敬意を持つマナーである。
P67 ”二の段が微妙”な別府君は算数の時間になると、その時間だけ特殊学級にレンタル移籍されてゆくので、”三の段”ができるボクのことをどうやら尊敬のまなざしで見ているようだった。
P81 しかし、当たり前になれると思っていたその「当たり前」が、自分には起こらないことがある。
P150 「だいたいがよ。百円ライターの会社が球団持つこと自体に無理があるんよ。そら、江川も巨人の方がよかろうたい」
P155 そこには、バクが高校に合格して本当にうれしいのだ、オカンのことは心配せず、身体に気をつけて、一生懸命頑張りなさいと書いてあった。~そして、”母より”と締めくくられたその便箋と一緒に、しわしわの一万円札が一枚出てきた。
P169 誰も居なくなった家で、黄色くなった御飯を食べながら、心臓病の薬を飲み、映りの悪くなったテレビを観ている。ばあちゃんにとって、一日のどんな時が楽しいのだろう?
P175 それから連中は、当たり前のように交通事故に遭い、女子の接し方がわからず童貞をこじらせて警察に捕まった。
P192 オトンの人生は大きく見えるけど、オカンの人生は十八のボクから見ても、小さく見えてしまう。それは、ボクに自分の人生を切り分けてくれたからなのだ。
P295 ボクの姿を見つけると照れ臭そうに笑って手を振った。駅の名前も電車の乗り方も知らず、知り合いもいないこの街にオカンは六十を過ぎてひとりでやって来た。
P339 「まあ、そりゃあんた。別居しとっても、することは、しとったけんねぇ」
「なんじゃそりゃ・・・」
P348 なにがそんなにおかしいのかといえば、なにしろ一番大爆笑しているのが常にオカン本人なのである。もう、自分のやってることに最初っからウケちゃってて、腹を押さえてヒーヒー言っているのだ。
P417 自分がそんな状況になっている時にも、幻覚の中でボクの御飯の心配をしている。
P437 ごめん、オカン。なんて言いよるかわからんのよ。でも、わかるよ。~もう、オレのことは心配せんでよか。~もう、そげ苦しいとにから、なにも言わんでよかたい。オカン・・・。
P449 ”でもね、オカン。あの人たちはもしオレが先生やったら、そんなこと言わんのよ。それはそれは、そういうことでしたら私どもでなんとかしますからち言うて、花を抱えてへつらいに来るんよ”
”そげなことを考えたらいけん。あんたはあんたやろ。今、せにゃいけんことをしっかりやりなさい。ここで待っとるけん。書きなさい”
普段、向上心というものを人並み以下にしか持っていないボクだけど、その時ほど悔しいと思ったことはない。
P481 やけど、オカンみたいな年寄りが自分の葬式のためにコツコツ切り詰めて毎月三千円ばかしをひぃひぃ言うて払いよる。そういう年寄りの気持ちを互助会や葬儀屋はどう思うとるんかね?
二十七万で人に迷惑かけんでええと思うて安心して死んどるのに、オマエらがそんな年寄りにわかりづらいボッタクリバーみたいな料金設定しとったら、あの世で恐縮するやろうが!!
P509 母親というのは無欲なものです
我が子がどんなに偉くなるよりも
どんなにお金持ちになるよりも
毎日元気でいてくれる事を
心の底から願います
どんなに高価な贈り物より
我が子の優しいひとことで
十分過ぎるほど倖せになれる
母親というものは
実に本当に無欲なものです
だから母親を泣かすのは
この世で一番いけないことなのです
★★★☆
(756) 『楊令伝 十四 星歳の章』(著:北方謙三。集英社文庫)
P20 自分の部下の様子を毎日見にきていたのは、李英だけだ。花飛麟や呼延凌も、ちょっと顔を出しただけだった。
P75 「~何もかも放り出して、子午山に帰ろうか、と何度か思ったことがあるのだ。~」
「あそこにあるのは、澄んだものだけでしたよ」
P125 「おまえのような男に、俺の志が穢せると思うのか」
そうだ、志に生きたのだ。不器用で失敗ばかりした。小心で、周囲の眼をいつも気にしていた。それでも、志に生きた。それを見失ったことは、一度もない。
P309 「若いなあ、史進殿はいつも」
党厳が言った。
郭盛には、そして多分、鄧広にも、史進の無理がなんとなく見えた。
★★★
(757) 『ツレはパパ2年生』(画・文:細川貂々。朝日文庫) 帯に「ツレは離乳食づくりに公園デビュー、うつどころかスーパー専業主夫に!」とある。 だいたいそんな内容。息子の信頼は主夫状態のツレさんに全幅的に寄せられる。それは貂々さんにはけっこう複雑だろうし、それをエッセイなどで公表されるとツレさんはイジケ気分になったとあるが、これも何となく理解できる。
★★★
(758) 『三匹のおっさん』(著:有川浩。文春文庫) 特に引用したいような「名せりふ」はないが、帯の「痛快活劇小説」とあるように、読んでいて楽しい小説。やっぱ登場人物が魅力的。主人公的な清一と、最初はどうしようもない感じだった孫の祐希。この孫、話が進むにつれどんどん魅力的になる。 居酒屋を経営している重雄は、剣道系の清一と違い、柔道系で腕っぷしが強い。登美子さんとのやり取りもいい。 頭脳派則夫はメカに強いし、早苗と祐希の関係は甘ずっぱくていい感じ。(まあ、則夫みたいな危ないスタンガン親父の娘とは付き合いたくないだろうけど)
★★★
永続的に書評が大量に積み残し。
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