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2012年5月のひとこと書評(掲示板に書いた文章の転載。評価は★5つが最高)

  5月のひとこと書評の再録です。掲示板そのままでは芸がないので、評点をつけます。★5つが最高。評価基準の詳細は、2001年11月書評のページをご参照ください。


(731) 『楊令伝(十)』(著:北方謙三。集英社文庫)
P124 「もともと人は哀しい。もう少し生きてみれば、わかるであろうよ。おまえがことさら哀しむのなど、無駄というもんじゃな」

P150 時々、どうしようもなく億劫になることがある。動きたくない。なにもしたくない。そう思ってしまい、そこから脱け出して動くのに、ひどく手間取ることがあった。

P168 「二つずつだぜ、楊令殿」
「悪いな。半分、俺にくれているわけだろう。返すものが、なにもない」
「そのうち、返してくれりゃいい。生きてる者同士ってのは、貸し借りは大事だ」
「まったくだ」

P226 「なにか、足りない、と思ってた」
 徐絢が、眼を開いた。
「いつも、なにか、足りなかった」
 徐絢の眼から、涙が流れ出してきた。
「ありがとうって言ってみたけど、それでも、足りない」
 徐絢の躰に、なにかが襲いかかってきているのを、侯真は感じた。
「いま、わかる。続きがあるのよ。ありがとう、あたしみたいな女、好きになってくれて」
 徐絢がいなくなるということが、侯真にははっきりわかった。
「ありがとう、ね」
 ね、というところだけが強く、心に突き刺さってきた。
「ありがとう」
 次は、ね、がなかった。
 ありがとう、もなかった。
 腕の中で、徐絢が徐絢ではなくなった。

P289 「ひとつだけ、俺が抱こうとしている思いを、言ってやろう」
 岳飛は、一歩牢に近づいた。徐史は、岳飛の背中を見つめていた。
「盡忠報国」

★★

 徐絢と侯真の二人が、哀しく切ない。

 


(732) 『楊令伝(十一)』(著:北方謙三。集英社文庫)
P97 民に安寧を与えたら、なにが返ってくるのか。~安寧が、わずかに安寧でなくなっただけで、不満が充満し、民は牙を剥きはじめるだろう。~
 その牙を抜くのが、王の残酷さではないか。

P131 「楊令殿でも、反省、いや反省されることがあるのですか?」
 韓成の口調には、微妙な皮肉がこめられているが、楊令は聞き流した。嫌われること、懼れられることは、頭領になった時に覚悟したのだ。

P140 死んだ人間に対し、宋江はこんなふうに書状を届けていたのだ。全部の人間には、書けなかっただろうし、宛名さえわからない者も多くいただろう。書ける限り、宋江は書いたのだ。

P169 いくら領土を拡げたところで、そこにいる民の数を富と思った瞬間から、国は疲弊し、腐りはじめるのだ。

P292 「もっと大きなものを、見ている。それがあなたらしい。子供たちのことは、家族のことです。あたしが、いろいろと考えてあげればいいこと。~」
 梁山泊は、言ってみれば、家族のことだけを考えているのではないのか。

P365 歩兵の中に打ちこまれている、一本だけの杭。

P378 「老人ができることは、若者の代わりに手を汚してやることぐらいだ。杜興はそう思ったんだろう。早くいなくなる人間の手が、汚れる方がずっといいってな」


★★★

 一本の杭というのが秦容。これからが楽しみ。

  


 

 

 永続的に書評が大量に積み残し。



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