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2012年3月のひとこと書評(掲示板に書いた文章の転載。評価は★5つが最高)

  3月のひとこと書評の再録です。掲示板そのままでは芸がないので、評点をつけます。★5つが最高。評価基準の詳細は、2001年11月書評のページをご参照ください。


(722) 『下山の思想』(著:五木寛之。幻冬舎新書)

P14 私たちは、すでにこの国が、そして世界が病んでおり、急速に崩壊へとむかいつつあることを肌で感じているからではあるまいか。

P68 裁く神から、許す神への大転換である。

P77 〜
法然という人は、おそろしく過激な宗教家である。
〜時間と、教養と、金のある者たちしか救われない、そんなバカな仏教などあるか、と彼はいう。

P96 「絶対に大丈夫です」
 と、テレビで断言した学者もいた。〜市民を迷わせ、詐
(だま)すような言葉だけは、政治家も、学者も、使ってほしくない、と世間の全員が思っていることに、なぜ気づかないのだろうか。

P199 真実は必ず一種の怪しさを漂わせて世にあらわれる。

P213 砂糖はどんなに非難されても地上からなくならない。塩もそうだ。映画館も、劇場も、書店も、時代を超えて生き続ける。それが人間には必要だからである。

★☆

 評判の著作だが、既出の文章を寄せ集めたのか繰り返しが多く、あまりインパクトを受けなかった。

 


(723) 『東電OL殺人事件』(著:佐野眞一。新潮文庫)

P13 〜私の本意は彼女のプライバシーを暴くことではない。あえていうならば、この事件の真相にできるだけ近づくことによって、亡き彼女の無念を晴らし、その魂を鎮めることができれば、というのが私のいつわらざる気持ちである。

P80 〜若い頃、人もうらやむほど仲のよかった夫婦が、更年期を過ぎ、次第に疎遠な関係になるというのはちっとも珍しい話ではない。

P137 〜人権、人権といいたてるだけで、人権回復の具体的アクションを何ひとつ起こそうとしない人権派〜


★★

 「私の本意は彼女のプライバシーを暴くことではない」というが、彼女の故郷を訪ね、執拗に実名まで書き連ねるところに白けたものを感じた。



(724) 『秘境ブータン』(著:中尾佐助。岩波現代文庫)

P17 〜
ウゲン・ワンチュックは〜1907年にブータン歴史上初めての統一王国の世襲の王位に即位した。〜さしずめブータンの歴史の、20世紀の神武天皇のような役割である。

P33 私はこのようなブータンのトップクラスの婦人達と話していて、その教養の広さに驚いたが、じつはもっとびっくりしたのはこの婦人達の判断力がひじょうに安定しており、感傷や気分に動かされることのないことだった。

P34 〜チベット・ブータンの婦人の地位の高いのは恐らく東南アジアにあった母権構造に由来し〜反面〜チベット文化圏の地域で、女が男と全く変わらぬ筋肉労働に平然として従事するのにも驚く。

P42 インドの汽車旅行はいつもこれだ。ただもう待つ以外の方法はない。〜彼らは時間を超越しているので平然としているのでなく、どうすることもできないのであきらめているだけだ。

P104 たとえ水爆戦の時代になり、全世界の空気と水が放射能の灰に満たされても、ここブータンには何千年もの昔から降り積もった雪でできた〜チョモラリ氷河の〜水に育った野草と、一年以上貯蔵した穀類を食べておれば、世界のどこより放射能の害はないわけだ。

P132 生物の進化は遠い昔だけに起ったことではない。ブータンのシャクナゲは、いま、しばらしい速度で進化し〜あらゆる可能性はつぎつぎに実現される。

P139 囚人になることは、何よりブータン人にとって不名誉なことだ。〜ブータンでは、実際上囚人は世界中でいちばん楽に暮らしている。

P159 乳牛の数が人口より多いブータンの国は、乳の流れている国だ。〜この国に結核がほとんどないのも理由のあることだ。
P201 乳製品が食べものからきれたら、暴動でも革命でもおこしかねないのがヒマラヤの連中だ。

P212 従者が私にマチャンを説明したとき、にやにやした意味がやっとわかった。ブータンの若い男女は、長い人生に重大な意義と影響を及ぼすはかない短い時間をここで過ごすのだ。

P223 〜手回しの臼は、労力がたいへんかかり〜縦軸水車ができて初めて粉食が本式になったわけだが〜古代オリエントの大都市には〜横軸駆動水車や、地区力利用の製粉法があったといわれる。

P242 ブータン人は”裸足のチベット人”という形容がいちばん簡単明瞭だ。

P301 6か月の滞在の結果、つくづく感嘆したのは、ブータン人が全部豊かな生活をしていることだった。〜アジアの中に、民衆生活がこんなに安定した国はひとつもない。

★★★

 国民幸福度No1も肯ける思いがする。

 


(725) 『決断する力』(著:猪瀬直樹。PHPビジネス新書)

P3 決断は、外見では非連続な思考のように見えるが、そうではない。粘り強さの果てに、ようやく飛躍することのできる蓄えられた力の結果である。

P21 手順どおり出動要請を待っていて、万が一にでも消火活動が間に合わないようなことがあってはいけない。

P28 何が大事なのか。〜危機の最中に何よりも重要なのは、ルールを守ることよりも、即断即決の実行力である。

P29 〜全体を統轄してみる立場の人間は、現場の声に耳を貸し〜やるべきことをリストアップし、優先順位をつけて指示を出す。

P42 できるだけ正確な状況をつかむこと、集まってきた情報をもとにその場で決断を下すこと。そして結論をすみやかに関係者と共有すること〜。

P44 〜僕は、ツィッターで〜情報を流しはじめた。アクセスできない都庁のホームページのバイパスをつくったのだ。〜
 通常は、広報担当がやるべき仕事かもしれないが、当時、東京都の広報課はツィッターのアカウントを持っていなかった。〜その時の反省を生かして、現在では、東京都庁広報課もツィッターアカウントを持っている。

P51 「責任は俺がとるから思い切ってやってみろ」という上司の下では部下も力を発揮できる〜

P53 決断に時間をかけるのではなく、まずは動き出すこと。その後、変化があるたびに軌道修正をはかっていく。

P66 〜みなさんもツィッターやフェイスブックをやったほうがいいと思う。普段から慣れ親しんでおかないと、必要なときに使いこなせない。

P86 周囲の反対を押し切ってでもやらなければならないことがある。〜リスクのない対処法などない〜自分独自の価値基準を持っている人は〜まったくブレない。
 〜秀才というのは〜他人の評価に弱いし、日和見主義になりがちだ。

P99 〜トップが「この路線で行くぞ」というメッセージを出しつづければ、やがて組織は変わってくる。

P102 仕事はきちんと”見える化”することだ。各部署、各メンバーがやることを一覧表にまとめて”見える化”する。実施済みは青、検討中は黄、実施予定は赤のように色分けしておけば、進捗状況も確認できるし、誰が何をやっているか、あるいは何もやっていないかがひと目でわかる。〜
 ”見える化”をしないと、すぐにサボる人が出てくるのだ。

P111 過去の事例を検証し〜役に立ったやり方をノウハウとして蓄積する。新たに危機に直面するたびに、従来の手順を見直し、ブラッシュアップしていけば、より使い勝手のいい「危機管理マニュアル」ができる。

P118 首都直下型地震が来たときに備えて、それぞれの会社が自分で備蓄を持つ。

P137 事前にきちんと詰めてあるからこそ、いざというときに、大胆に行動できるのだ。

P215 盲目的な国への忠誠ではなく、国民としての義務を果たすこと、自分たちでできることを持ち寄って、「共助」の体制をつくりあげること。
 我われ日本人の覚悟が求められている。

★★★

 「危機管理」時のリーダー論として重要。

 

  


 

 

 永続的に書評が大量に積み残し。



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